半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

チャンピオンになった後輩とポンコツおやじの再会。


『27日に山崎君が道場に来てくれるで』
というメールがキックボクシングの師匠から届いた。一週間ほど前だ。

山崎君というのは元道場生で、Krush-63㎏級王者の山崎秀晃選手のことである。
何年も前に目を傷めて道場を辞した僕だけれど、たまに顔を出させていただいたり、月に一度行われる元道場生を対象に
した練習会には、参加させていただいている。

27日当日は早めに家を出たのだが、思いのほか道が混んでいて、道場に着いたのは練習開始時間を20分程ほど過ぎ
ていた。
中に入るとミット打ちの最中だった。いつにも増して緊張感が漂っているのは、現役チャンプの山ちゃんのオーラのせいだ
ろう。

押忍! と全体に声をかけ、僕は道場の隅でしばし練習を見た。
すると道場生のミット打ちを、一人ずつ順番にしてくれていた山ちゃんが、その合間にさっと僕のところに来て挨拶をしてく
れた。
「お久しぶりです!」
端正な顔の割に野太い張りのある声、人懐っこい笑顔は相変わらずだった。
正直、気持ちよかった。
若い道場生の多くは、たまに現われるポンコツおやじの僕のことなどよく知らない。
『元道場生で先輩らしいけど、下ネタばかり連発する変なおっさん』くらいに思っているに違いなかった。

それが、だ。

現役のチャンピオンが自ら歩み寄って挨拶をしたのだから、僕の株はにわかに急上昇した。もし僕という男の株が
実際の経済に影響したなら、一夜にしてあのとき以上のバブルが来ていたはずだ。

「シマちゃん、やらへんのか?」
「あ。はい、やります」
師匠に声をかけられた僕はすぐに練習着に着替え、軽くアップをした。
体が温まったところで、山ちゃんにミットを持ってもらうことにした。

「よろしく」
両のグローブを軽く突き出す。
「はい」
山ちゃんがミットを当てて応えてくれる。
山ちゃんと練習するのは何年振りだ。8年くらいか。
僕は少し感傷的な気分になった。

実は僕の目を“壊して”くれたのが、この山ちゃんなのである。
あるアマチュアの試合前、ガチスパーリングをしたときにやられたのだ。
3分を2ラウンドするはずが、1ラウンドが終わった時点で僕の左目が終わっていた。視界の左上辺りが崩れたゼリーの
ように歪み、瞬きをするとフラッシュをたいたように目の前がぴかりと光るのだった。

結局、それが原因で僕は出場を予定していた試合を諦め、間もなく道場も去った。山ちゃんが19歳、僕が35歳のときだ。道場じゃなくて、道端でやっていたら完全なオヤジ狩りだ。

山ちゃんはその後、関西の大会でいくつものタイトルを獲り、やがて上京。名門・チームドラゴンで研鑽を重ねプロデビュー。KO勝ちの山を築き、ついにはKrushのチャンピオンにまで昇りつめた。プライベートでは数か月前に美人モデルのステッカールディアさんと結婚した。

「はい、スタート!」
かけ声とともに、師匠がストップウォッチのボタンを押した。
そうだ。ミット打ちだった。

ジャブ、ストレート、フック、アッパー、さまざまなコンビネーションを山ちゃんの構えるミットに打ち込んだ。
パンチだけのミット3分が30分に思えるほど体はきつかったが、気分は爽快だった。

「久しぶりやな、山ちゃん」
ミット打ちが終わり、僕は改めて山ちゃんに話しかけた。
「はい。島中さんもお元気そうでなによりです。ってか、昔より若返ったんじゃないですか」
「そうかなぁ。それよりほんまビッグになったな。実は、あのオレの目を壊してくれたスパーリングのときにな、思ったんや」
山ちゃんの表情が少しシリアスになる。
「この男は将来、絶対美人のモデルと結婚するって」
「そっちですか」
山ちゃんが今度は声を上げて笑った。

休憩時間には若い道場生たちが、スマホを手に山ちゃんの前に並んだ。ツーショット写真を撮ってもらうためだ。
中には嬉しさと緊張のあまり「あうあう」とわけのわからない声を上げているやつもいた。
僕? 僕はさっきから書いているように、これでも山ちゃんの先輩なのだ。スマホでツーショットなんてそんなこと。
ちゃんとデジカメで撮ってもらいましたよ、はい。だいたいまだガラケーやしね、僕。

練習後は山ちゃんを囲んでの飲み会となった。参加メンバーはポンコツの僕以外は、元プロの渡邉和さん、アニキ森山さん、道場の門番・川島さん、そして師匠という錚々たるメンバーだった。
そこで山ちゃんは力強く復帰戦の勝利を約束してくれた。
プロデビュー後、破竹の勢いでKrushのチャンピオンになった山ちゃんだが、11月に行われた『K‐1 WORLD GP 2014 ‐65㎏初代王座決定トーナメント』でゲーオ選手に負けてしまったのだ。

しかし、大丈夫だろう。羽生義治によると『運命は勇者に微笑む』らしいから。真の勇者・山ちゃんに運命は大笑いしてくれるはず。

期待してます!

それはそうと、今から山ちゃんとのツーショット写真で年賀状を作リ直そうと思うのだが、間に合うだろうか。

                                チャンピオンになっても礼儀正しい後輩に感心しつつ、合掌。
                                                                                            
追記:目はすっかり治りました。歪みは数日で、フラッシュは一年半くらいで。ただ、最近は近くの細かい字がぼやけたりする。年は取りたくないなぁ(笑)





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