半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

2001年のクリスマスに仕掛けられた罠・・・


2001年のクリスマスイブ。その夜、僕は5人の友達と枚方のカラオケBOXでハジけていた。

5人のうち3人は女友達だった。

歌い始めて1時間ほど経った頃、尿意を感じた。

僕は、3人の女子の中で一番美人なUちゃんに『まちぶせ』をリクエストしてから部屋を出た。

トイレは長い廊下を進んで、フロントの前の自動ドアを通り抜けたその先にあった。

用を足して部屋に戻るとき、僕は走った。リクエストしておいた『まちぶせ』を聞き逃してはいけないと思って、急いだのだ。

しかし、それが災いした。

酔っていたのもあったのだろう。スニーカーのひもを踏んでしまったのだ。ひもを踏んでどうなったかというと、当然のように

体のバランスを崩した。

前のめりに倒れていく先には自動ドアがあった。

僕は頭から自動ドアに突っ込んだ。

気がついたら、床にうつ伏せに倒れていた。

目の前はガラス片の海だった。

右の手の甲から血が出ていた。おでこの辺りがなにやら生温かいので左手で触ってみた。ぬるっとした血が指先から

掌にひろがった。

フロントにいた女性店員が飛んできた。動揺していたのだろう。上野樹理に似た、けっこう可愛い店員さんは

「お客様、大丈夫ですか?! お怪我はないですか?!

と、絶叫した。できの悪いコントか。

ご覧の通り、僕はアブドーラ・ザ・ブッチャーにフォーク攻撃された“テキサスブロンコ” テリー・ファンクなみに流血して

るっちゅうの。

たっぷりと血は出ていたが、僕は冷静だった。

「うん。ありがとう、大丈夫。それより、チャック上げさせて」

急いでいた僕はジーパンのチャックを上げながら走っていたのだ。

「すぐに店長呼んできますので、ここでお待ちください!」

言うが早いか、樹理は猛ダッシュで事務所らしき部屋に消えていった。

間もなく八嶋智人に似た店長が、めんどくさそうな顔をまったく繕うことなく現われた。

僕は八嶋店長の車で近くの病院に行くことになった。八嶋店長がめんどくさそうに「病院に行った方がいいですよ」と言った

からだ。

病院に行く前に、僕はこのアクシデントの報告をするため、一旦、部屋に戻った。

みんな、ぽかんと口を開けて血だらけの僕を見、「待ってるわ。気つけて」とか「うん。いってらっしゃい」なんて言った。

曲はミスチルの「名もなき詩」がかかっていたが、マイクを持っていた松久も歌うのをやめ、阿呆のような顔で僕を

見ていた。誰も「一緒に行く」とは言ってくれなかった。

「廊下に思わぬ罠がまちぶせてたわ」

僕が血だらけで放ったギャグにも誰も笑ってくれなかった。


運転中、八嶋店長はずっとうっとーしそうな顔をしていた。僕はなにを話していいかわからず、「どうですか。景気の方は」

などと、トンマなことを訊いたりした。やはり血だらけの顔で。

10分ほどで新世病院というところに到着した。

時刻は24時を過ぎ、イブから世界で一番有名なロン毛男の誕生日になっていた。

宿直医はとても眠たそうだった。

ボサボサの爆発頭を揺らしながら、パパイヤ鈴木に似た宿直医は僕の傷を診た。

「お酒、飲んでるね。麻酔効かないから、このまま縫うよ。額は縫わなくてもいいよ。え。うん、大丈夫。皮膚が薄いから

派手に血は出るけど縫うほどじゃない」

僕は「できれば全身麻酔でお願いします」と懇願したが、聞き入れられることはなく、人さし指と中指、それから薬指にかけ

てを合計6針、麻酔なしで縫われた。酔いがさめるほど痛かった。

帰りの車の中で八嶋店長から、自動ドアのガラス代を弁償してくれと言われた。

けがをした客であるオレが弁償するのか? と、一瞬思ったが、僕が割ったことは事実であるので承諾した。

カラオケの部屋に戻ると、今度はみんな、やんやの歓声で迎えてくれた。

なんだか変な心持だったが、頭と手に包帯を巻いた僕はへたくそなウィンクで応えた。

そしてようやく聴くことができたUちゃんの『まちぶせ』に酔いながら思った。

いくら仕事とはいえ、ジャッキー・チェンは、あんな自動ドアに頭から突っ込むようなことを自らすすんでやっているのか。

やっぱりスゴイ! スゴ過ぎるぞ。ビバ! ジャッキー!と。

僕は聖夜のカラオケの最後に『プロジェクトA』を泣きながら歌った。

僕が泣いたのは、ジャッキーの偉大さに改めて胸を打たれたからではない。

自動ドアの弁償代が35000円だったからだ。

                                     いろんな意味でイタかったあの日の聖夜に合掌。





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