半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

頼れる後輩に頼られて張り切ってみたが・・・


 二十歳から15年間、ビジネスホテルのフロントマンをしていた。
 
 “切り込み隊長” 

 そんな言葉をイメージさせる後輩女性スタッフがいた。名を奥田さんといった。
 
 ホテルにはいろんなお客様が来られる。当然、紳士、淑女ばかりではない。
 中にはわがままなお客様や、無理難題をおっしゃるお客様もいる。
 そういったお客様が来館されても、奥田さんは臆さず

「私が行きます」

 と、手を挙げ率先して対応した。
 
 その勇気、責任感は趣味としてたしなんでいたテコンドーで身につけたものなのか、生来のもの
 なのかはわからない。とにかく、彼女の積極的な仕事ぶりに僕はいつも感心していた。

 ところが、だ。

 ある日、外線電話に素早く出た奥田さんが、なにかごそごそ言うとすぐに保留ボタンを押して僕のところに
 やってきた。

 ?マークを頭に浮かべたまま、僕は奥田さんの言葉を待った。

「すみません、島中さん。英語なんですが、お願いできますか」

 申し訳なさそうな奥田さんに、僕は笑ってうなずいた。
 勇気も責任感も人一倍ある奥田さんだったが、英語は少し苦手なようだった。

 僕は普通より少しだけ英語ができると、後輩たちに勘違いされていた。
 それは若いころに、たった1週間だけニューヨークをぶらぶらしただけの旅行体験が、いつの間にか
「島中さんは、ニューヨークでホームステイしていた」とか「ブロードウェイで舞台俳優を目指していた」とか
「ハーレムで黒人同士の喧嘩を仲裁してマフィアにスカウトされた」とかいう、原型がほぼ完全になくなった
 形で後輩たちに伝わってしまっていたからだ。
 
 もちろん、業務上、多少の英語は理解できた。それはホテルにおける英語がお客様の「~したい」とか
「~に行きたい」というリクエストが中心であって、その辺の単語を押さえていれば、なんとかなるということを
 体験的に知っていたからだ。

 ともかく、頼りになる後輩に頼られて僕は張り切った。
 
 軽く咳払いなんかしてから、受話器を取った。

「Thank you for waiting. May I help you?」 (お待たせいたしました。ご用件をおうかがいいたしますが)

 とりあえずお決まりの台詞を発した。いや、なんなら隣にいる奥田さんを意識して

「Come on !」 (さあ、来い!)

 なんてことを柴田恭兵ばりに叫んでいたかも知れない。
 でも、格好がついたのはそこまでだった。

「Come on !」がいけなかったのか、男性外国人は情けも容赦もない早口の英語で捲し立てた。

 宿泊がしたいのだなということが、なんとなくわかったので、「いつに何人で宿泊したいのか」と
 いうことを繰り返し聞いたのだが、全く話が進まない。

 僕は焦った。焦って嫌な汗は出たが、急場をしのぐ英語は出てこなかった。

 僕と外国人男性の間に10秒ほどの沈黙が流れた。

 沈黙を破ったのは外国人男性のため息だった。

 やれやれといった感じで息を吐いた外国人男性は

「もう、仕方ないなあ。日本語でしゃべるよ。あのね、僕は予約の確認をしたいの確認。いい?」

 と言いやがった。いや、おっしゃられた。とても流暢な日本語で。
 
 顔面ファイヤーだった。火災報知機がならないのが不思議なくらいだった。
 
 奥田さんにも対しても、やな性格の外国人男性に対しても恥ずかしかった。
 それでも、ほんの少しだけ残っていた責任感で予約の確認をした。もちろん日本語で。

 電話を切った僕は、奥田さんを見ずに軽くうなずいた。どういうわけか、まだ格好をつけようとしていた。あほだ。
 横にいた奥田さんは僕の恥ずかしい失敗に気づいていたはずだ。にも関わらず、彼女はそれには触れず
「ありがとうございました。助かりました」と礼を言ってくれた。

 当時、彼女は20歳くらいだったか。もうあれから10年ほどの月日が経ち、彼女も母になった。
 そんなかっこいい彼女の人となりが、うかがい知れるブログがある。

 奥田数珠製作所:店主のブログ
 
 ぜひ、覗いてみてください。


 しかし、あのときの電話対応はほんとに恥ずかしかった。

 こんなことになるなら、トップレスバーで金髪ギャルに乳ビンタをくらってばかりいずに、ちょっとは真面目に
 英語の勉強をすればよかったと、短いニューヨーク生活を悔やんだものだ。

 




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コメント

ご紹介いただきありがとうございます。
奥田です。
す、す、すみません。そのエピソードあまり記憶がないです。ただ島中先輩が英語ペラペラという噂は聞いてました。
これからもよろしくお願いします。

  • 2014/11/05(水) 00:01:30 |
  • URL |
  • 奥田 #-
  • [ 編集 ]

いやいや。

俺がぺらぺらなのは人間性やね(笑)
こちらこそ、よろしくお願いしま~す。

  • 2014/11/05(水) 18:47:22 |
  • URL |
  • 島中 之裕 #-
  • [ 編集 ]

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