半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

まだ携帯電話がない時代、多くの家庭で起きたであろう小さな悲劇。


 高校2年生のちょうど今ごろの話だ。

 家でお風呂に入っていたら、おかんが

「之裕、電話や」

 と言って扉を開けた。

 見ると、おかんは左手に電話機、右手に受話器を持っていた。

 僕宛に入った電話を取り次ぐために、台所横にある電話を引っ張ってきたのだ。

 僕は湯船に浸かったまま、手を伸ばした。

 おかんは、僕に手渡す前に受話器を耳に当てて言った。

「お待たせ。いま之裕とかわるわな、まさみちゃん」

 その瞬間、湯船に浸かっている僕の体に悪寒が走った。

 まさみちゃんは元カノの名前で、そのとき僕がつき合っていたのは、まなみちゃんという娘だったのだ。

 悪寒が去ったあとは、湯船の湯が沸騰するくらいの殺意が湧いたのだが、なんとか堪えた。

 僕が電話機と受話器をひったくると、おかんは

「わざわざ電話持ってきてやったのに礼くらい言えや、こんぼけ」

 と、捨て台詞を吐いて台所に戻った。

 僕はごくりと唾を飲んでから受話器を耳に当てた。

「もしもし、どしたん?」

 おかんの失言はなかったことにして話をしようと思った。でも、当たり前だがそうはいかなかった。

「お母さん、間違えてはった」

 まなみちゃんが、静かに言った。死ぬかと思った。

 もしかしたら、まなみちゃんは少し笑っていたかも知れない。でも、だからこそ余計にコワかった。

「うん。そやな。ごめんな」

 としか言えなかった。

 その後、まなみちゃんと何を話したかは覚えていない。

 風呂から上がって、改めておかんを怒鳴りつけたが

「ほんまか。まあ、しゃあないやんけ」

 と言って、大笑いしやがった。
 
 怒るのもばかばかしくなって、僕もつられて笑ってしまった。

 
 そんなおかんがこの間、体調を崩して入院した。

 面会に行くと

「おい、之裕。おかんが死んだら、墓はアイスキャンデーの棒でええわ。金がもったいないからな」

 と言いやがった。

 いつもの冗談のつもりでおかんは言ったのだろうが、 僕はちょっとだけ泣きそうになった。

 




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