半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

過去に整形手術をしたことがある。

 
 まず、お詫びしたい。

 今回、タイトルを『過去に整形手術をしたことがある』としたけれど、本当は整形手術でなく、包茎手術です。

 別に包茎手術をしたことが恥ずかしいというわけではない(それなら、そもそも書かない)

 単にキャッチーなタイトルにして、読んでくれる人の興味を引きたかったのだ。ごめんなさい。

 では、禊(みそぎ)も済んだところで本題に入る。
 

 包茎手術を決意したのは二十歳のときだ。

 セックスができないというわけではなかったのだが、けっこうな痛みを伴ことがあったので思い切って手術を

 受けることにした。そのときつき合っていた彼女の希望でもあったし、見てくれもよくなかったからだ。

 皮が余っているアソコはまるで、『朝顔のつぼみ』のようなのだ(平常時ね)

 病院は伏見の藤原泌尿器科というところにした。 通勤電車から見える駅に広告を出していたという理由で

 ここに決めた。

 
 初めに藤原泌尿器科に訪れたときは、さすがに恥ずかしかった。

 藤原泌尿器科はいわゆる一般的な泌尿器科で、特に包茎手術の看板を掲げているわけではない。

 患者は膀胱炎や腎臓の病気で通っている人ばかりなのだ。

 だから、受付でデビュー当時の深津絵里に似た看護士さんに

「今日はどうされましたか?」

 と、訊かれたときに思わず

「ちょっと具合が悪くて……」 

 と、言葉を濁してしまった。

 やはり風邪をひいたときのように

「なんか包茎みたいなんですけど」

 と言うべきだったのだろうか。


 藤原先生は髪がやや脂ぎった、45歳くらいの男の先生だった。

「調子が悪いってどういうふうに?」

「いや、その……余分な皮を切っていただきたくて」

 ここにきてようやく、包茎であることを告げることができた。

「あ、そ。じゃあそこのベッドに横になってパンツを下げて」

 藤原先生は浅黒い顔の表情を変えることなく、軽くあごをしゃくった。

 僕は藤原先生の向こうにいる深津絵里の存在を、脳内で「ないこと」にしてパンツを一気に下げた。

 藤原先生は紫色の液体で手を消毒してから、僕のをムイムイした。

「君のは仮性やわ。ムケるからな。仮性は保険効かないから手術代は10万円くらいかな」

 僕はズボンを履きながら、仮性包茎と真性包茎の違いや美容形成クリニック系のところは費用が高いなどと

 いった先生の講釈をなんども相づちを打って聞いた。

 雑誌などで勉強していたので、そのへんのことは知っていたけれど、なんせ僕の一番大事なところを預ける

 わけだから、横柄な態度を取って手術の際、変ないたずらをされたら困るもの。

 翌週の水曜日、午後3時に手術の予約を取ってその日は帰った。


 当時、僕はその後15年間務めることになるビジネスホテルの関連会社で、外回りの営業をしていた。

 だから、手術は平日でも問題なかった。

 先生の話では手術の所要時間は約30分。すぐに歩いて帰れるとのことだった。

 問題は費用だった。社会人に成りたてで貯金などなかった。

 おかんも息子のムスコの手術代に、10万円も出すような甲斐性はない。友達にお金を借りるのはよくない。

 僕は仕方なく、弟に借りることにした。

 高校を人より早めに卒業した弟は住み込みで肉体労働に勤しんでいたので、少なくとも僕よりは

 貯金があるはずだった。

 電話で話をすると、弟は二つ返事で「わかった」と言ってくれた。


 手術当日。とりあえず出社して一日のスケジュールを確認するふりをした。

 そしていつものように「行ってきま~す」と言って事務所を出た。

 予約の時間より早く病院に着いた。すこし不安だった。

 深津絵里に案内されて更衣室に入った。

「これに着替えてください。着替えたら奥の手術室に来てください。あ、下着はつけないでくださいね」

 深津絵里は淡々としてはいたが、かといって冷たいというわけでもなかった。

 手術室は案外広くてガランとしていた。スタッフは藤原先生を含めて4人だった。深津絵里もいた。

 いよいよはじまった。局所麻酔だった。注射針が刺さるときにチクリとしただけで、あとは痛みは感じなかった。

 ただ、何やらブニュブニュと皮を切られる感触や、皮膚を縫い合わされる感覚はあった。

 手術の最中、藤原先生は

「ペニスの語源はラテン語で『しっぽ』という意味の……」

 などという、どうでもいいうんちくを披露した。ほんとにどうでもよかったが、僕は熱心を装って聞いた。

 なんせ自分の一番大切なところを今まさに預けているのだから。

 40分くらいで手術は終わった。

 起きあがってパンツをはこうと、マイ・ジュニアを見ると包帯が巻かれていた。なんだかとても愛おしく思えた。

 スーツを着て、代金を支払い病院をあとにした。

 最寄りの駅に向かう途中で麻酔が切れてきたようで、痛み出した。

 擦れるとよけいに痛いので変な歩き方になった。

 事務所に帰るころには疲れ果てていた。

「戻りました~」
 
 力なくドアを開けた。

「お帰りなさい。お疲れさま。島中くん、大丈夫? なんかお疲れのようすやね。そんなに今日は頑張ったの?」

 なにも知らずに笑顔で迎えてくれたのは、営業事務の小寺美穂さんだった。

 まさかこの人と8年後に結婚するなんて。

 




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