半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

無理やりポジティブ

 二十歳から15年間、ビジネスホテルのフロントマンをしていた。

 寺田大祐(本名・濃いめの男前)という大学生のアルバイトがいた。

 寺田は現役で神戸大学に合格するほどの頭脳と、プロキックボクサーからその素質を絶賛されるほどの体力を

持ち合わせていた。

 寺田はアルバイト中も、その溢れんばかりのバイタリティで常に笑顔を絶やさず、社員も顔負けの働きぶりを見せた。

 僕もずいぶん助けられたものだが、寺田が周囲に好影響を与えたのはその徹底したポジティブシンキングだ。

 寺田はささいなミスは言うに及ばず、けっこうなミスをしてしまったときも、いたずらに落ち込むことはせず、

すぐに気持ちを切替えた。そうすることでミスの連鎖を未然に防ぎ仕事に対するモチベーションをキープしたのだ。

もちろんは反省はした上でだ。


 
 ある夜勤のとき、僕は大きなミスをしてしまった。

 自慢ではないが、僕はうじうじした性格でマイナス思考だ。

 そのときも「この世の終わりが来た」というくらい落ち込んでいた。

 そんな僕に寺田が言った。

「島中さんは悪くないですよ。お客様のことを思ってしたことが、結果、裏目に出てしまっただけです。元気出してください」

「ありがとう。そう言ってくれると救われる」

 ひと回りほども年下の学生バイトからの励ましが僕は嬉しかった。

「お前はいつも元気やなあ。皮肉じゃなくて、ほんまに尊敬するわ」

 僕は自然に笑顔になった。

「いやあ、そりゃあ僕も落ち込みますよ。でも一瞬です。もったいないですよ、落ち込んでる時間が。

どんなことも明日へのステップです。僕はそう考えるようにしてるんです。いわば、無理やりポジティブです」

 寺田の豪快な笑い声が深夜の事務所に響いた。

 “無理やりポジティブ”

 その夜以来、僕はなにかに失敗したり、困難にぶつかったときは寺田のこの言葉を思い出し、

なんとかやり過ごした。


 寺田は大学を卒業するまでアルバイトを続けた。卒業後は不動産関係の会社に就職し上京した。

 数年後、帰省した寺田と飲んだ。

 寺田は相変わらず元気で飲みっぷりも豪快だった。

 僕はやっぱりうじうじ君だったが、それでも少しは前向きな思考ができるようになっていた。

 僕は改めて寺田に礼を言った。

「お前のおかげや。お前が言ってくれた無理やりポジティブって言葉に何度も助けてもらった」

 酔いのせいもあって、感傷的な言い回しになってしまった。

 僕は、ジョッキに残っていたビールを一気に空けた。

 ごつんとテーブルにジョッキを置いた僕に寺田が言った。
 
「え。僕、そんなこと言いましたっけ?」

 椅子ごと後ろに倒れそうになった。

「お、お前。ほんまに覚えてないのか?」

「はい」

 これ以上はないというほど、楽しそうな笑顔だった。

 言った本人が忘れる程度の言葉を支えにしていたなんて……・

 もう笑うしかなかった。飲むしかなかった。

  




気まぐれ日記 ブログランキングへ
 
にほんブログ村 サラリーマン日記ブログへ
にほんブログ村
 

 

コメント

僕、そんなけっこうなミスしましたっけ?笑

  • 2014/10/15(水) 09:31:14 |
  • URL |
  • 寺田大祐 #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

いや、大丈夫や。大丈夫て(笑)

  • 2014/10/16(木) 02:05:59 |
  • URL |
  • 島中 之裕 #-
  • [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する