半泣きの詩(うた)R 

「半」のつく言葉が好きだ。半泣き、半笑い、半ケツ、半身、半熟、半殺し等々。 どれもこれも中途半端な状態を表していてコミカルだ。 半殺しなんかはちょっと物騒な響きだが、それでもきっちり殺されるよりはマシである。 世界は中途半端であふれ返っている。 このブログでは大泣きするほどのことではない、でも半泣きくらいにはなってしまいそうな日常のシーンを掠めとって、読んでくれる人を半笑いにしたいと思います。

夏の終り、もしくは秋のはじめの想い出。

僕は先に温泉から上がり、1人部屋に戻った。

窓の外を見るとちょうど太陽が海の向こうに沈もうとしていた。


9月下旬の吉良は、少し肌寒かった。

松久、さっち、みなちょ、そして僕の4人は高校の同級生だ。

それぞれ恋人がいたりいなかったりだったが、年に一度は温泉に行っては、日頃のウサを晴らしていた。


窓際の椅子に座り缶ビールを開けた。

オレンジ色にキラキラ光る海を見ながら、僕は思い出した。そして考えた。あの時のあの人のあのひと言について。

『ごめんなさいね。あなたしかいないって言ったけど、ほんとうは私を幸せにしてくれる人なら誰でもよかったの…』


一体、彼女は僕のことを愛していたのだろうか…。


“涙は人間が作る一番小さな海です”と寺山修司が言った。


目の前に広がる海が人間の涙でできたのだとしたら、どれほどの人が涙を流したのだろう。

僕は海があまり好きではない。いや、正確に言うと怖いのだ。

海は何でも呑み込んでしまう。 あの大きくて熱い太陽でさえも呑み込んでしまうのだ。そんな海に、こんな汚れた僕なんかが身を浸すときっと呑み込まれるに違いない。 そう思うと怖くてたまらないのだ。


一体、僕は彼女のことを愛していたのだろうか。

酔いがまわってきた。脳みそが、とろりとしたバターのようになってきた。あの人のことも、明後日からの仕事のことも、どうでもよくなってきた。


後ろで物音がした。


『あれ。島中くん、もう上がってたの』

さっちが戻ってきた。濡れた黒い髪を無造作に束ねて、うなじに手を当てながらにっこり笑った。

ほんのりと頬が紅く、胸元が汗で少し“光っている。

僕は返事らしい返事をせず、また海を眺めた。

海はやはり美しく、畏(おそろ)しかった。 視界の端にさっちが入ってきた。僕の横に立っているのだろう。
僕たちは何も話さなかった。 ただ、目の前に広がる海と海に呑み込まれていく太陽を見ていた。恋人同士ならきっとキスのひとつでも交わすに違いないようなシチュエーション。友達とはいえ、なかなかの雰囲気だ。


僕は気の利いたセリフのひとつでも言ってやろうと考えた。とろとろバターの脳みそで。
だけど、先に言葉を発したのはさっちだった。

『島中くん、口開いてるよ』

そう言ってさっちは笑った。僕も笑った。

もはや太陽は完全に海に呑み込まれていた。

程なくして、松久とみなちょも戻ってきた。
その後は飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだった。楽しかった。また行きたい。


―――20年前の日記から。

ずいぶん気持ちの悪いことを書いていたものだ。

でも、20年経った今も、あの人が言ったあのひと言をこの季節になると思い出す。

いかんなぁ。





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コメント

20年前の日記。
若い頃の日記は実家に。
恋はいっぱいしたけれど、「喧嘩別れ」はない。
自分から返事が怖いから、告白経験ゼロ。
相手の名前(フルネーム)誕生日も忘れていない。(笑)
恋愛は相手が好きになってくれる方が、聞いたコトもある。皆、それぞれイイ男だったよ。
ほぼ同い年。
あんな気持ちにもう、戻れるコト無いよなっ。
皆イイお父さんになってるはず。

  • 2015/09/17(木) 23:24:29 |
  • URL |
  • きょうこ #-
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きょうこさま。

たくさん恋をして喧嘩別れがないって、いいですねえ。

別れた人のことを「イイ男だった」と言えるのも、素敵な恋をしていたっていうことですよね。

あんな気持ちに、もう戻れないのかな・・・

  • 2015/09/18(金) 18:45:24 |
  • URL |
  • 島中 之裕 #-
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  • 2015/09/20(日) 04:04:50 |
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  • 2015/10/04(日) 11:12:08 |
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  • 2015/10/12(月) 02:32:07 |
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